石橋財団コレクション
古代から現代までを概観できる石橋財団アーティゾン美術館のコレクションは、現在3,000点におよび、国際的にも高く評価されています。そのはじまりは、久留米出身でブリヂストンの創業者である石橋正二郎が半世紀にわたって収集した作品の数々でした。
石橋正二郎は、1889年に久留米市に生まれました。17歳で家業の仕立物屋を継いだ後、ゴムを用いた地下足袋を商品化、その後、自動車タイヤの国産化に成功し、1931年にブリッヂストンタイヤ株式会社(現・株式会社ブリヂストン)を創業しました。
この頃、正二郎は、坂本繁二郎からの勧めもあり、本格的に絵画収集をはじめ、青木繁と坂本繁二郎、その後には藤島武二を中心とする日本近代洋画をコレクションに加えました。さらに、第二次世界大戦終結後には、敗戦によって国内の資産家たちが手放した西洋絵画を集め、戦前のコレクターたちが集めた名品が国外に流出することを防ぎました。
そして、正二郎は「コレクションを自分一人だけで愛蔵するよりも、多くの人に見せるため美術館をつくり、文化の進歩に尽くしたい」という考えから、1952年1月に東京・京橋のブリヂストンビル2階を「ブリヂストン美術館(現・アーティゾン美術館)」として公開しました。
さらに、1956年4月には「石橋美術館(現・久留米市美術館)」を中心に据えて、体育館やプール、公園施設などを整備した「石橋文化センター」を故郷の久留米市に建設寄贈しました。文化センターの正門には、正二郎の筆による「世の人々の楽しみと幸福(しあわせ)の為に」という寄贈理念が刻まれています。
正二郎の亡き後は、自身が創立した石橋財団によって収集は継続され、新たに戦後のフランス抽象絵画を中心とした作品群も石橋財団コレクションに加わりました。
そして2020年、ブリヂストン美術館は5年の休館期間を経て、アーティゾン美術館として開館。それを機に、日本近代洋画と西洋絵画を核とする伝統を引き継ぎながら、女性作家の作品や20世紀美術、現代美術にまでコレクションは広がり続けています。
二つの美術館
石橋正二郎が美術品の収集を本格的に始めたのは1930年代のこと。高等小学校時代の図画教師だった画家・坂本繁二郎との再会がきっかけとなりました。
夭折した同郷の画家・青木繁の作品が散逸することを惜しんだ坂本は、正二郎に青木の作品を集めて小さくてもいいから美術館をつくって欲しいと語ったといいます。その後、正二郎は、青木繁をはじめ、日本近代洋画の作品を次々に収集していきました。
正二郎が作品を収集するときには、その先にある「美術館」建設の具体的なイメージが湧き始めていたのかもしれません。そのせいでしょうか、石橋正二郎のコレクションは、個人の趣味の反映以上に皆に見て楽しんでもらいたいという気持ちがこもっているように感じられます。
第二次世界大戦が終結した1945年以後、西洋美術のコレクション、そして美術館設立という正二郎が思い描いていた二つの夢が形になっていきます。
「青木や藤島などの洋画家たちの作品と、彼らがお手本としたフランスの画家たちの作品を一緒に並べたら光彩を放つだろう」と語る正二郎は、海外流出の危機にあった西洋美術を積極的に収集し、印象派を中心とした一大コレクションを築き上げました。
1950年、はじめて渡米した正二郎は、ビルの中にあるニューヨーク近代美術館に感銘を受け、当時、東京・京橋に建築中であった本社ビルの2階を美術館として自らのコレクションを一般公開することを決意。そして1952年1月にブリヂストン美術館が開館しました。
さらに、4年後には故郷である久留米に石橋美術館を建設。街中のビルの中にあるブリヂストン美術館とは対照的に、美術館の前にはフランス式庭園を配し、体育館や50メートルプール、野外音楽堂などを併設し、後には文化ホールや日本庭園の建設も進めました。
ブリヂストン美術館と石橋美術館という二つの美術館。正二郎はそれぞれ開館前に大規模な収集を行っています。
ブリヂストン美術館開館展の図録に正二郎は、美術館の設立を「10年来の宿望」と語りました。実際、青木繁や藤島武二の主だった作品が集まり始めたのが、おおよそ開館の10年前にあたります。コレクションの核ができあがったことで、かつて坂本と語り合った美術館構想が現実味を帯びてきたのでしょう。
そして、石橋美術館の開館直前の収集作品リストには、セザンヌやコローといった海外作家とともに、古賀春江や吉田博といった久留米出身の画家たちの名前が並んでいます。このことは、優れた美術品を見てもらいたいという願いとともに、そして地域の作家を埋もれさせることなく後代の人々に繋いでいこうという正二郎の強い意志が感じられます。
そして現在、二つの美術館は正二郎の意志を引き継ぎながら、時代とともに新たなステップを踏み出しています。
石橋美術館は、2016年の石橋文化センター開園60周年を機に、運営を久留米市が引き継ぎ、名称も新たに「久留米市美術館」として11月19日に再スタート。
ブリヂストン美術館は、ビルの建て替え工事とともに2015年から休館し、2020年に「創造の体感」という新たなコンセプトを掲げて「アーティゾン美術館」として開館しました。

